改正貸金業法が2010年6月に完全施行されたのを境に、ヤミ金被害者が増えているという調査結果が公表された。
一方、監督官庁の金融庁の調査ではヤミ金被害者は減っており、法改正の有効性を主張している。
まったく正反対の結果が出てくるのはなぜか。消費者金融業界や規制当局、政界も注目するヤミ金の実態を探った。

ヤミ金業者の実態を暴く!!

「ヤミ金業者? 廃業して振り込め詐欺に流れていた連中がまた戻ってきている。特に去年の秋頃から増えてるよ」
しゃれた金色の腕時計をした男は言った。彼自身も池袋を拠点にヤミ金業を手がける業者の1人だ。
彼いわく、2010年6月、上限金利の引き下げ、年収3分の1を超える貸し出し禁止を柱とする改正貸金業法の完全施行を境にして、ヤミ金業者の動きが再び活発化しているというのだ。
「そりゃそうだよね。法律で正規の消費者金融業者から借りられなくなったやつらがヤミ金に流れるのは間違いない。だから、カネ貸しはチャンスだと思う。ヤミ金が減ってると言うやつがいたら馬鹿だよ、馬鹿」
ただ、規制当局の金融庁は「ヤミ金被害者は増えてはいない」とあくまで主張する。

2011年6月、金融庁は消費者金融の利用者に対するアンケート結果を公表した。
法改正前の2010年3月に実施した調査では、ヤミ金利用率が3.0%だったのに対し、改正後の2011年4月の段階では、2.1%まで減少した。
ヤミ金被害者が減り、ヤミ金業者も市場から追い出したとばかりに、金融庁はこの数字を改正貸金業法の成果として誇示した。
しかしこれは恣意的に歪められたデータで、信頼性が低いと言わざるをえない代物だった。
というのも、2010年3月の質問では過去3年間の利用率であったのに対し、2011年4月のアンケートは法改正後、つまり、10ヵ月間の数値なのである。
期間が違えば利用率に差が出るのは当然。同列に扱えば、誤解を招くことは火を見るよりも明らかだ。むしろ問題なのは、たった10ヵ月で2.1%に数字が跳ね上がったという事実だ。
にもかかわらず、金融庁など所轄官庁の責任者が出席する「改正貸金業法フォローアップチーム」では、「ヤミ金対策法ができた03年以降、さまざまな対策を行ったことでヤミ金被害は減ってきているのではないか」などという、のんきなやりとりが交わされているから驚きだ。
自見庄三郎・金融担当大臣も「懸念されたような深刻な状況には陥っておらず、制度の見直しはすべきでない」と至って楽観的だ。

ヤミ金被害者は最盛期と同水準に・・

加えて、クレジットカードのショッピング枠の現金化業者を利用する人も増加傾向にある。
現金化商法については、消費者庁も注意喚起をしており、金融庁も広義のヤミ金として認識している。
だが、先述した2.1%という調査結果の中には、このクレジットカードの現金化業者を利用した者は含まれておらず、広義のヤミ金利用者はもっと存在することになる。
「ヤミ金被害はむしろ、ピーク時の02年の水準まで戻っている」
衝撃的な分析を主張するのは、東京情報大学の堂下浩教授だ。10月には、金融庁の恣意的なデータを覆す決定的な調査結果を公表。金融庁に対して「現実を直視すべき」と警鐘を鳴らす。
2000年の法改正により上限金利を40.004%から29.02%へ引き下げた後、その副作用としてヤミ金被害は拡大した。
被害がピークだった02年、全国貸金業連合会が実施した調査によると、ヤミ金被害者数は51万~104万人と推計されていた。
ところが、堂下教授が中心となって行われた「ヤミ金融の利用に関する調査」によると、2011年7月の時点でヤミ金被害者の推計は58万人にまでふくらんだ。
03年、ヤミ金撲滅のために罰則強化を柱としたヤミ金対策法が施行されたのだが、約10年間で、再び02年当時の“ヤミ金最盛期”へ戻ってしまったのだ。

増加の背景は、消費者金融が果たしてきた役割を振り返ることで納得がいく。
消費者金融の利用者には、零細事業主が多い。
それは、取引先からの入金と社員の給与支払日のあいだ、数十日の資金をやりくりするため、手軽に借りられる消費者金融は使い勝手がよかったからだ。
消費者金融業界は強引な取り立てなどの社会問題を引き起こした反面、小口の資金を市井に注入する役割を担ってきたのはまぎれもない事実だった。
ところが、改正貸金業法施行で事態は一変。消費者金融各社は融資基準をますます厳格化し、信用収縮が起きてしまった。
消費者金融業界は、中小企業の経営者の小口の資金ニーズに応えられなくなり、経営者は貸し手を探してわらにもすがる思いでヤミ金に手を出すケースが増えたという。
実際にヤミ金を利用した経験のある経営者は、「100万円前後の資金を10日前後借りたいという状況は、中小企業の経営者なら誰にでもあること。
銀行が貸してくれるはずもなく、頼ってきた消費者金融がダメならヤミ金しか残っていなかった」と打ち明ける。
堂下教授の調査では、ヤミ金利用者に占める零細事業主の割合は増加しており、2010年は前年比6ポイント増の22%となった。
一方で正規の消費者金融の利用者に占める割合は、1ポイント増の17%。正規業者に融資を断られた零細事業主がヤミ金に流れている可能性が高い。

前述のヤミ金業者の男も、「消費者金融から客が流れてきているのか、事故歴のある顧客が減って、客が良質化してきた」と指摘する。
複数のヤミ金業者は「顧客は借り入れができて感謝して帰っていく。さらに知人を紹介してくれることもある」と証言する。
主婦がヤミ金を利用するケースも増えている。生活費のやりくりのために消費者金融に借金をする主婦は多かった。
しかし、改正貸金業法施行で、収入のない主婦は借り入れがほとんどできなくなった。零細事業主と同様に、行き場をなくしてヤミ金を頼るのだ。
今のヤミ金は、かつて社会問題化したときのような暴力的で乱暴な取り立てはせず、したたかに接する。仕事や家庭、育児、将来設計などの相談まで引き受け、プライベートな関係を構築しヤミ金の世界へと引きずり込んでいく。
そうして違法な高金利でカネを貸し付け、暴利をむさぼるのだ。
複数のヤミ金業者は「顧客は借り入れができて感謝して帰っていく。さらに知人を紹介してくれることもある」と証言する。

零細事業主や主婦が餌食 – 抜本的な見直し必要

多重債務者を増やさないことを目的に施行された改正貸金業法。しかし、上限金利の引き下げと総量規制の導入は急激な信用収縮を招く結果となった。
零細事業主や主婦などの、少額の利用者は置き去りにされた。貸し手を探してさまよう零細事業主や主婦は、やがてヤミ金にたどり着き、悪徳業者の餌食となる。この構図はヤミ金業者をはびこらせてしまう。
2000年の法改正でヤミ金を増加させた過ちを、政府は再び犯している。利用者は違法な業者からの借り入れによって、多重債務者となる可能性も考えられる。
改正貸金業法の抜本的な見直しを求める声は高まっている。石川和男・東京財団上席研究員は「上限金利の大幅な引き上げや総量規制の撤廃を検討すべきだ。
一方で業者の登録制度の厳格化や違法な取り立てに対する罰則の強化、利用者に対するカウンセリング窓口の整備をすべきだ」と指摘する。
実際に、超党派の議員が集う改正貸金業法に関する勉強会で、上限金利の引き上げや総量規制の見直しなどが議題に上がっている。
金融庁は恣意的な調査結果を発表している場合ではない。現実を直視し、一刻も早く抜本的な見直しに着手すべきである。

※上記ニュース記事を参考にさせて頂きました。